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お酒の話
アルコール添加
 「お米を原料にお酒(=アルコール)を造り出すのが日本酒造りなのに、なぜアルコールメーカーから購入したアルコールを添加するんだ!」という声が聞かれます。
 とかく評判の悪い「アルコール添加」です。これが「まやかし」のように言われるのは、太平洋戦争のころから造られた「三倍増醸酒」が原因と思われます。このお酒、純米酒のもろみにぶどう糖や水あめ、乳酸、グルタミン酸ソーダなどを添加して味を調え、醸造アルコールを大量に入れて「三倍にのばしたお酒」です。増量は、米不足、酒不足、酒税による太平洋戦争の戦費調達のためという事情などから誕生しました。ところが戦争が終わっても、農業は荒廃し、米もお酒も極端に不足し、我慢できずに石油製品である消毒用アルコールを薄めて飲み、失明したり死亡したりするひとが多く出ていました。そんな時代に「三倍増醸酒」は、甘くて安全なお酒として喜ばれ、この混乱の時代に大きな役目を果たしたお酒でした。現在も醸造用糖類を少量添加したお酒がありますが、山仕事などで疲れた身体を癒すお酒で、「三倍増醸酒」とは別なお酒です。
 お酒造りは、酵母という微生物が糖分を食べてアルコールと炭酸ガスを出すことを利用しています。このアルコール発酵のときに醸造酸と呼ばれる酸を出します。ワインも日本酒もたくさんの酸があると飲みづらいので、人間は一工夫をしてこの酸を和らげています。
 ワインのように果物から造られるお酒には、醸造酸としてリンゴ酸が大量に誕生しています。やはり多すぎれば飲みにくく、これを解決するためにアルコール発酵のあと、蔵内の温度を上げて乳酸菌の活動をうながし、リンゴ酸をよりおだやかな乳酸と炭酸ガスに分解させ、結果として減酸という効果が得られる「マロラクティック発酵」を行ったりします。
 日本酒の場合は、リンゴ酸は大吟醸酒などに少量が出るだけで、酸の多くはワインに少ない乳酸、琥珀酸などです。江戸や明治の時代の純米酒は、この酸がたくさん出過ぎていて、「鬼ころし」と悪口を言われていましたが、今では、さまざまな醸造技術が進化し、酸をあまり出さない工夫が生み出されています。そのひとつに精米を良くすることが有効ということで、かなりの精米をして「純米吟醸」などと表示して売り出していますが、残念ながらほとんどは味の載らないお酒となっています。
 純米酒は現代の技術を駆使して造っても、飲み下したあとに喉の奥に張り付くような酸を残します。純米酒の宿命的な欠点です。そんな純米酒にアルコールを添加すると、お酒の味が薄くなると思いきや、実際に実験してみると意外なことが起こります。コップ一杯の純米酒に目薬ぽたり程度の量の焼酎を混ぜてみてください。酸もやわらぎ、さらに味がキュッと締まるのです。お酒と同じ度数のアルコールの添加量を、一升瓶につき約一合弱以下の割合に抑えたお酒が「本醸造」を名乗れます。限度ぎりぎり目一杯の添加量のお酒というのもありますが、優れた技術で造り、添加量も控えめにした本醸造酒を口にすると、本醸造の「本」は本物の「本」なのだと気づかされます。
 スペインの誇るワイン「シェリー」もアルコール添加酒です。その添加の目的は、帆船で輸送中、北アフリカ沖の高温に耐える「体力のあるワイン」の開発でしたが、添加によりふつうのワインとはひと味もふた味も違うワインになっています。
 ましてや日本酒は、畑と天候が決定的な要素になる農産物加工品のワインと違って、建物の中で人間の工夫によって造られるお酒です。黒ぶどうから赤ワイン、青黄ぶどうから白ワインが誕生することとは違って、同じ米から大吟醸酒も山廃純米酒も造り出します。まさに驚嘆の手工業品です。アルコール添加も工夫の民族「日本人」の考え出した世界に誇れる技術なのです。「純米酒だけが本物の日本酒」という風潮が、すぐれた日本酒の技法を葬り去ろうとしているのは憂慮すべきことです。